先天性視認知覚異常症
後にF×(フェイスレス)症候群と云われるもの
視認情報が上手く働かず、見た相手の顔が読み取れない
それどころかモザイクが張り付いたように顔全体が見えない
2005年 12月5日 PM20:34
「容疑者確保。被害者の少女は頭を鈍器のような物で強打され、意識不明の重体です。至急、救急車の手配を・・・」
意識が無い
何か硬い物で頭を殴られた
真っ暗な視界に映ったのは、顔が無い自分だった
【F×】
2005年 12月5日 PM12:40
別に裕福だとか貧乏だとかじゃない
普通の家に生まれて、普通の家庭で育って、普通の環境で生きてきた
親の敷いたレールに反発とか、反抗期がどうとかそういうのも普通だった
刺激が無かった訳じゃない
友達もそれなりに居たし、憧れた人だって居た
仄かな想いをした事も、悲しい失恋を経験した事もあった
それでも、どこか、物足りないと感じていたのかもしれない
「・・・か・・・ぬか!・・・・・・絹歌!」
絹歌「ふわぁ!?な、何、天ねえ?」
「もしかして寝てた?」
彼女は来澤天音(くるさわ あまね)
わたしの親友その1である
絹歌「え、あー・・・その、夢見てた」
天音「夢ってまた例の女の子の夢?」
絹歌「うん」
天音「はは〜ん、欲求不満てやつかな?でも女の子同士ってのはどうかと思うな~」
絹歌「ちょ、ちょっと、何でそうなるのよ!(////」
天音「お?満更でもなさそう?」
クックックッと不気味に笑う天ねえ
女の子同士なんてそんな漫画みたいな・・・
「お二人さん、ご一緒してもよろしいですかな?」
天音「お、墨江の。いいぞー、今絹歌のコイバナしてるから!」
絹歌「ちょ、だから違うって!(////」
今加わった彼女は墨江真由美(すみえ まゆみ)
わたしの親友その2である
真由美「説明が短いなぁ、おい」
絹歌「え?」
真由美「いや、何でもない。それはそうとコイバナとは感心しませんなぁ。絹歌には私が居るじゃないか」
天音「うわ、オヤジかお前は・・・」
真由美「あれ、そんな事言っていいのかなぁ?私、昨日天ねえが三組の藤枝君と一緒に居るの見ちゃったんだけどぉ?」
天音「ばっ、あ、アイツとは何にもねえよ!ただ帰り道が一緒だっただけで・・・(////」
真由美「ニヤニヤ)・・・別に私は見かけただけだしぃ♪」
天音「・・・て、テメエっ!!」
ガヤガヤと騒がしい昼休みの教室で
二人は恒例となった追いかけっこを始める
周りのみんなは「また始まったか」と呆れながらも笑っている
PM20:25
天ねえのウチに行ってて遅くなってしまった
早く帰らないとまたお母さんに叱られてしまう
そう思いながら曲がり角を曲がった直後
そこから記憶がぼやけている
確か、遠くでパトカーのサイレンが聞こえていたのは覚えている
その音が段々大きくなって、近くまで迫っていた所までは何とか思い出せる
絹歌「そこからはあまり覚えていません。誰かに殴られたような痛みはありましたけど、微かにしか覚えてないです」
「そう。倉井さん、貴女はね、私達が追っていた強盗殺人犯に殴られたの」
そう言って警官らしき女の人は続けた
「幸い脳に支障はなかったみたい」
それは違うと思う
嘘を吐いているんじゃないかとさえ思った
だって、警官らしき女の人の顔が見えないんだから
2005年 12月5日 PM21:06
その日、私の生活は変化した
今にして思えば、物足りなく思えていた時が一番幸せだったのかもしれない
終わり
■メモ■
F×(先天性視認知覚異常症、顔認識阻害症候群、フェイスレス)とは、一種の奇病である
この奇病に罹った者は全国でも少数しか確認されておらず治療法は目下不明
倉井絹歌の場合、顔の輪郭までは判別出来る様だがそれ以外の判別は無理な模様
彼女がこの病気に罹った直接的な原因は、逃亡していた強盗殺人犯による頭部への打撃である
つまり脳にダメージを負った事による後遺症である
以降、彼女はF×と向き合って生きていく事になるが、この1年後に偶然同じF×患者に遭遇する事になるがそれはまた別のお話である